スターとクルマ

「ENGINE」7月号(5月に発売されました)でスターとクルマという原稿を書きました。

(上の写真はポルシェ550スパイダーに乗るフォン・カラヤンですが

とくに関係はありません)

原稿は下記のようなものです。

「「人生はクルマに似ています。前の席と後ろの席があって、間はガラスで仕切られている」  映画「麗しのサブリナ」(1954年)での印象に残るひと言だ。ヘプバーン演じたサブリナのお父さんは、ハンフリー・ボガートとウィリアム・ホールデンの富裕な兄弟のお抱え運転手。ある時そのお父さんが、自分の人生哲学をボガートに披瀝する場面で語られるのが、冒頭の台詞である。

ハリウッドスターは、少なくとも1940年代ぐらいまでは、俗世と隔絶した強いオーラを放っていた。ここに掲載した写真のおもしろさは、逆に、写真家たちがクルマを用いて、スターの偶像性を少し壊そうとしているように見受けられるところだ。

憂いを帯びた瞳のヘプバーンはリムジンの窓枠(=映画のスクリーン?)から飛び降りたそうだ。誰でもわかる感情という点では、コーベットに座ったバルドーの笑顔も大衆的だ。

50年代からスターの写真が変化を見せはじめた背景に、ロバート・キャパが創設に参加した写真家集団マグナムのメンバーがハリウッドに“進出”したことがあげられる。たとえばデニス・ストック。雨のニューヨーク・タイムズスクエアを肩をすぼめながら歩くジェイムズ・ディーンをとらえた1枚は古典的だ。 「マグナムの写真家にはスターの前でもけっして畏まらないという独特の強みがある」というストックの言葉を紹介したのは評伝「マグナム」を書いたラッセル・ミラー(木下哲夫訳)。ストックはディーンの故郷インディアナ州フェアモントまで同行して、プライベートな姿を撮影した。一連の写真には、従兄弟のマーキーとクルマのオモチャで遊びながら、自然な表情を見せるディーンが多く観られる。

1960年代になるとハリウッドスターたちが小粒になり、より強いスター性や破天荒なふるまいはミュージシャンたちの十八番となる。ディーンを含めてハリウッドスターのスキャンダルを書き綴ったケネス・アンガーの名(迷?)著「ハリウッド・バビロン」日本語版の後書きでそう評したのは、文化史家の海野弘だ。

60年代以降の印象に残るクルマの写真は、実際、ミュージシャンと撮られたものが多い。でもことクルマとの写真の場合、映画スターでもミュージシャンでも、たんなる記録にとどまらない。クルマとの関係を通して作品とは違う、より人間的な面が現れる。それがとてもおもしろい。

ogawa fumio HP

小川フミオのホームページ フリーランスのライフスタイルジャーナリスト クルマ、グルメ、ファッション(ときどき)、多分野のプロダクト、人物インタビューなど さまざまなジャンルを手がける 編集とライティングともに得意分野で企業の仕事もときどき 「朝日新聞&M」「GQ」「UOMO」「openers」などライフスタイル系媒体に 紙とウェブともに寄稿中