恋するアダムのおもしろさ

英国イアンマキューアンの(日本での)新作「恋するアダム」を読んだ。全財産使ってアンドロイドを買った、30代のロンドナーが、主人公。
パラレルワールドのような80年代の〝もう一つ”の英国が舞台。やたら技術が進んでいて、感情すら持つアンドロイドが(高価だけど)販売されているのだ。
文章は、マキューアンだけあってべダンチックで、最初は入りにくい。でも、すぐおもしろくなるのも、いつものマキューアン。
日本では似たタイミングで、カズオイシグロの「クララとお日さま」が発売された。イシグロもかなりの手練れなわけで、ロボットと人間の関係を逆転させ、ロボットには流行もあるし、機械の寿命があることが、主題にからんでくるところが、おもしろい。
あまり書かれていないのは、イシグロがこの作品で、機能強化型人間に注目していること。いま、フランスをはじめいくつかの国で、視力や筋力、さらには脳にチップを埋め込んで、兵士の戦闘能力を高めることが、前向きに(!)検討されているそうではないか。
人間が人間でいられるのは、ある種のはかなさがあるから、というのが文学の基調にあったような気がする。それを逆手にとって、やさしい感情のような思考を持つロボットを主人公にしたのが、うまい。
アダムは知的刺激のある作品で、一方、クララは感情を揺さぶられる作品。日本人だと、和多田葉子が思いつく。もう少し本腰を入れて「献灯使」を書いてくれていればよかったのに、といまさらながら思った。

ogawa fumio HP

小川フミオのホームページ フリーランスのライフスタイルジャーナリスト。 クルマ、グルメ、ファッション(ときどき)、多分野のプロダクト、人物インタビューなど さまざまなジャンルを手がける。 編集とライティングともに得意分野。ライフスタイル系媒体を中心に紙とウェブともに寄稿中。