フィリップロスを悼む
ユダヤ系の米国人作家、フィリップロスが5月22日に逝去した。
かなり強くユダヤ性を前面に押しだした作品もあり、たとえば新聞の訃報欄ではほとんど取り上げられていない「ザプロット・アゲンスト・アメリカ」(2004年)。
これもおもしろい。
いってみればディストピア小説。
第二次世界大戦が始まったとき、大統領にチャールズ・リンドバーグが選ばれてしまった架空の過去がテーマとなっている。
リンドバーグは飛行士として有名だが、いっぽうで孤立主義者で、かつ反ユダヤ。
フランクリン・デラノ・ローズベルトの対立候補という設定。
FDRが英国を助けようとしているのに対して、米国の戦争への不参加を表明(米国の若者を欧州の戦争のために死なせてはいけない、という)して当選。
孤立主義は同時に、ナチスと不可侵条約を結びソ連を抑え込もうとするかたちへと発展。
リンドバーグ大統領はさらにそもそも反ユダヤだったところにもってきて、ナチスの政策を一部受け入れ、米国のユダヤ人を強制移住させたりという反ユダヤ政策を打ち出す。
マンハッタンでシアワセなユダヤ人街区に暮らしていたロス一家もそのあおりで、どんどん悪化していく状況に巻き込まれていく……。
結末は必ずしもハッピーでないのだが、おもしろい作品だ。
昨今のイエルサレムへの米国大使館移転のときの悲劇も記憶に新しく、ユダヤ人をめぐる複雑な状況を垣間見ることが出来る。
ぼくはその前に「アメリカンウォー」(オマルエル=アッカド)を読んでいて、どことなく通じるものを感じた。
こちらは温暖化で地球がダメージを受けたあと、第二次南北戦争が勃発した後のアメリカが舞台。
そういえばニューヨークタイムズのウェブサイトで下記のような記事があった。
自然災害に何度も襲われている地域。
たしかにフロリダのハリケーンとか、カリフォルニアの山火事とか、日本でもニュースになったものは少なくない。
変わってしまった世界で個人がどう生きるか。
米国の作家はコーマックマカーシーといい、オリジンを超えてさまざまなかたちでこのテーマを追究している。
さきに触れたジェイン・ジェイコブスの街を守る運動だって、どこかで通底している。守るべきものをしっかり知っている。それが一番強い、手強い。
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